三月にウグイスが鳴き始めた。今年は、ろくに練習もしていないのに初手から見事な「囀(さえず)り」だった。それから、もう来るか、もう来るかとホトトギスを待ったが来ない。やっと川向こうから「テッペンカケタカ」という囀りを聞いたのは五月の中旬だった。玄関先の小さな藪で、早くからホーホケキョとは聞こえたが、ホトトギスは六月になってやっと囀り始めた。ウグイスに抱卵してもらうホトトギスの産卵は間に合ったのだろうか。
今日は絶好のポスティング日和。朝から重たいリュックを前に抱いて、高平台小学校グラウンド横の小道を、俯きながら歩いていると、淡いピンクの花が散り敷いていた。昨日の雨風で散った校庭の片隅の「合歓の花」だった。そうか、もう合歓の花の季節なのだ。
合歓の花を見ると必ず思い出すのが「奥の細道」の「象潟(きさかた)」の場面だ。芭蕉は(秋田県の)象潟を訪れ、「俤(おもかげ)松島にかよひて、又異なり。松島は笑ふが如く、象潟はうらむが如し。寂しさに悲しみをくはえて、地勢魂をなやますに似たり。」と述べ「象潟や雨に西施がねぶの花」と詠んだ。
西施は史記の「臥薪嘗胆」にも登場する絶世の美女。絶世の美女故の最期はむごい。合歓の花の美しさを西施に例えたこの句、そして太平洋岸の松島と裏日本の象潟との対比は趣深い。庭の紫陽花、苦瓜の花やミニトマトの成長、ピーマンの結実も季節の到来を教えてくれるが、やはり、幾世代も繰り返す自然の営みのそれには及ばない。
【ぶしつけでセンスのない編集者の注】
1) 合歓の花
2) 西施:中国の四大美人(西施のほか楊貴妃、貂蝉、王昭君)の一人。
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