熊本教育ネットワークユニオン

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落ち葉の尾根

落ち葉の尾根
 頂上へ、その稜線へとつながる尾根は緩やかで、目にも心にも安らぎを与えてくれる空間だった。人の世が奸知と喧噪にまみれているので、鳥や小さな獣たちしか住まないこの緑の世界は、訪れる者を優しい気持ちにしてくれるのかもしれない。人間の原初の喜びを刺激するのだろうか。
 いや本当にそうだろうか、と立ち止まって考えてみる。現実は森の中にも不協和が支配しているのではないか。平和や共存などという言葉を連想するのは人間の勝手な幻想であって、実は草も木も生き延びるために必死の営みをしているのではないか、と。それでもう一度、樹々の佇まいを見上げてみる。白い粉を噴いた竹の筒を凝視する。でも、人の目には今あるその姿こそが真実に見える。やっぱりここは、人の世界とは違っているのだ。
 谷や径を埋め尽くす落ち葉たちは決して哀れな寂しい姿ではない。夏まではそれぞれの樹を誇らしく飾っていたのが、今では森全体を覆う装飾品である。細いのも丸いのも、みんなで力を合わせて静寂の世界を作り出しているように見える。あまりに心地よいのでの上に仰向けに寝転んでみた。すると、動悸を打つ胸から凹んだ腹へかけて、そして自分の身体の全体に、紛れもなくいのちが躍動していることを知らされる。その時だった。もっと寿命の長い樹々たちが、豊かに延ばした枝先から自分の顔を覗き込み、聞き取れない声で何かを語りかけてきた。驚いて、私は跳ね起きたのであった。
                      (ネットワークユニオン・S)