熊本教育ネットワークユニオン

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小説と映画そして命

小説と映画そして命

 

 私は雑誌や新書などは読むが、小説などはあまり読んでこなかった。非常勤講師となり、近年は少しずつは読むようになった。主に歴史時代小説や推理小説などである。これらも、妻がインターネットで市立図書館から借りたものである。

 

 今年に入り、高野和明の作品を何作か読んだ。いろいろな賞を取り読んだ方も多いだろうが、私は知らなかった。「6時間後に君は死ぬ」「K・Nの悲劇」「幽霊人命救助隊」「グレイヴディッガー」など。読んだ順番は忘れたが、文庫本で大した厚さではなかった。

 そんな中で、単行本で分厚い1冊だけは読まないまま返却となった。学年末の成績処理などの最中で、気持ちが向かなかった。それが「ジェノサイド」という物騒な題の小説であった。ホロコーストカンボジアルワンダなどでの大虐殺が思い浮かぶ。ウクライナ侵攻でも、互いに国民やロシア系住民に対してこの言葉を使っていた。

 

 非常勤講師を辞めて余裕もあるので、読んでみようという気になり再度貸し出してもらった。その内容を説明することは到底できないが、主に日本とアフリカとアメリカを舞台としたサイエンスミステリーとでも言えば良いのだろうか。その展開や結末は誰にも想像できないものであったと思う。

 傭兵達が受けた危険な感染症が発生した可能性のあるピグミーの一部族を抹殺する任務。情報機関が察知した、その部族に突然変異より出現した超人類による人類絶滅の危機。絶滅したネアンデルタール人にとっては、現生人類こそが超人類であった。なんだか映画「猿の惑星を思い起こしてしまう。

 

 科学的な考証のためには、進化学・医学・薬学・数学・言語学など多岐にわたる学問に加えて、政治機構・情報機関・警察機構・暗号技術・情報セキュリティ・航空機・民族紛争などの幅広い知見と考察が必要だと思われる。本の最後に、数十の参考文献が列挙され、協力・取材に応じた専門家に対する謝辞があったが、それらを一つの作品にする構成力は並外れているように感じた。

 人の命の軽重を考えてしまう。国家の中枢は直接手は下さずに、いとも簡単に殺害の指示を出す。傭兵の1人は不治の病の子どもの治療費のために、葛藤がありながらも任務のために人の命を奪う。新人類はその計り知れない知能によって、種の存続のために多くの人の命を奪っていく。傭兵、高官、兵士、少年兵士など数多くの命が失われ、瀕死の子どもの命は救われる。ほとんどの人が、自分自身そして身近な人が大切なのは当然である。しかし、その延長上に争いや戦争があるようにも思う。人の中にある残酷さと仁愛の心、利己と利他・・・・、この虚しさのようなものを表す言葉が出てこない。

 

 GWは渋滞や混雑を避けて、例年遠出はしないで家にいる。連休の合間に劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」という映画をかなり久しぶりに見に行った。本格的な手術室を備えた大型車両で事故や災害現場に駆け付け、「待っているだけじゃ、助けられない命がある」という信念のもと自らの危険を顧みないで活動する医師や看護師などの救命医療チームの物語である。テレビ版も放送されていたが、見たことはなかった。主演俳優が人生を振り返るテレビ番組で、例によって最新作として紹介されていた。既に見た妻の友達も面白かったそうで、行こうということになった。

 

 こんなことは実際には無いだろうという展開だが、飽きることなく見入った。肉体的にもハードだと思われる場面も多くあり、医学の専門用語がよどみなく飛び交った。出演者もスタッフも大変だっただろう。

 フィクションだと分かってはいるが、何回か胸に迫る場面があった。その中でも私が一番グッときたのは、横浜に関東一円から結集した救急車などが隊列を組んで応援に来た場面であった。熊本地震で停電・断水している中、交通量が少なくなった3車線の国道の遠くに迫ってくる緊急車両の一団が見えた。鹿児島県の各地から集結した救急車など車列であった。とても感激したその光景と重なった。この映画でも人の二面性も描かれていたが、これまた消防士などの献身的な活動もあって奇跡的に死者はゼロであった。

 

 この2週間ほどで、命に対する両極のような小説と映画を見た。以前にも書いたが、自分の書いた文でも死や殺の文字が多く出てくると、気持ちの良いものではない。他の表現がなかなかできないので、やたら命という文字が増えてしまった。状況や気持ちなどを分かりやすく文章化するのはとても難しい。プロとは言え作家や脚本家それに漫画家などの発想力・構想力・表現力・語彙力は本当に驚異的だと思う。こちらは、これくらいの文章量でも毎回四苦八苦である。

 

 気分を変えて、連休後の平日に遠出したいものである。今後も、コロナに対しても運転に対しても油断せず慎重でありたいと思っている。

 

(熊本教育ネットワークユニオン true myself)