新型市電も積み残し
全国人権・同和教育研究大会の受付業務のため、熊本市東部の健軍の会場に向かった。早く着いたので、熊本市電の終着の健軍町電停まで歩いた。11月に走り始めたばかりの10年ぶりの新型3両連結低床電車を見たいと思っていた。
しばらくすると、黒と白の車体が近づいてきた。自動車運転中に試運転を1度見かけたことはあるが、間近に見るのは初めてである。以前に見たことがあるパトカーのよう白黒塗装した車両とはデザインが違い、車体が長いせいか流麗で新鮮な感じがする。3両のうち中央の2両目が短い。到着したときはB系統だったが、折り返しはA系統になって出発した。
1日目の受付業務終了後、新型車両に乗ることができた。健軍町電停から乗るのは本当に久しぶりだ。先頭車両に出入り口と入り口専用、後尾車両に出入り口の3つのドアがあった。私は真ん中の入り口専用から入った。運転士と車掌の2人乗務は2両連結低床電車と同様で、1両単独のワンマン車ではない。運賃は先頭と後尾で払うようだ。新しいせいか加速もなめらかで、路面電車特有の線路からのガタゴトという振動や音も少ないように感じる。
土曜の夕方5時半頃で、乗客は多い。定員1.5倍と言うが、出発時に満員になり途中で積み残しも出た。車掌が次の電車を待つように放送していた。時刻表より遅れたようだ。
混雑していたので長い車内をよく見ることはできなかったが、2両連結低床車両とはかなり違うようだ。両端の出入り口から運転席にかけて、段差のある高いフロアになって座席もあった。どうやら、その下に車輪やモーターなどがあるようだ。座席は横向きのベンチシートのみで、両端以外は低床のフラットな床面が続いているようだ。
2両連結低床車は車輪やモーターなどの部分が車内に張り出していて、その上に前後方向を向いた座席が配置されていた。低床ではあるが、床面積が削られるので1両単独車両と乗車定員はあまり変わらなかった。
私が小学生の頃、熊本市電は1号から7号系統まであった。そのうち、1・4・5・6・7号系統は廃止となり、2・3号系統と共通しない線路は廃線となった。基本的に2号系統がA系統で田崎橋・熊本駅から健軍町、3号系統がB系統で上熊本駅から健軍町の往復となった。しかも健軍町から辛島町の間は共通区間だから、昔からすると路線は半減した。
このうち7号系統は生まれ育ったところから割と近かったが、乗ったことはなかった。レトロな鉄骨造りの旧長六橋を走る短い車体の電車が印象に残っている。調べたら、車体と2本の車軸を直接サスペンションでつなぐ固定二軸車と言うそうだ。左右4個の車輪が付いていたように思う。他の路線にも走っており、「チンチン電車」とも呼ばれていた。電車が動き出すときに車掌が太い紐を引っ張って、運転台の上のベルを鳴らしていた。
7号系統は「川尻電車」とも呼ばれ、熊本市南部の川尻まで延びていた。そのカーブを定員が多く長い車体のボギー車では通れないと聞いた記憶がある。車体が長くても曲線通過ができるように、車体とは独立してある程度回転できる機構のボギー台車を備えていたのだが。4車輪の台車が車体の下に2台、計8車輪が付いているボギー車が今でも一番多い市電車両である。ワンマン電車に改装された現役車両の中には、私が生まれる前から走っているものもあるという。
車道の中央に線路がある路面電車は、交差点などで右折の車があるので速度を抑える必要がある。路面電車は方向を変えられないので徐行して、警笛やマイクを使って線路に入らず間隔を空けるように注意している。運転士は神経を張り詰める場面が多い。
道路と隔てられた専用軌道があるとスムーズに走行できる。広島電鉄の路面電車型の車両に宮島口から乗った。専用軌道をかなりの速度で走行した。踏切や立体交差になっていた。広島市街地では、そのまま道路中央を路面電車として速度を落として走行した。福岡での大学時代、福岡市も北九州市も西鉄の路面電車が走っていた。今では、それぞれ専用軌道で踏切もない地下鉄とモノレールに替わり、速い上に定時運行ができている。
熊本市電の専用軌道はB系統の洗馬橋と新町との短い区間のみである。A系統の田崎橋から熊本駅間は道路中央から端に移設され、緑の芝生貼りの専用軌道となった。廃止された7号系統には専用軌道区間がかなりあったように思う。
2日目の受付業務は早く終了したので、14時ころワンマン電車に乗った。床は板張りでかなり古いようだ。日曜の昼なのに乗客は満員になった。平日も朝夕などの混雑時間帯などは積み残しや遅延もあるという。この土日は生徒が企画から仕入れ・販売まで手掛ける「熊商デパート」も開催されており、高校前の電停の乗降客も多かった。私が勤務していた時も、担任したクラスそれぞれでカレー・ケーキ・団子・パン・飲料・履き物などの販売を行った。
熊本市電は来年4月から「上下分離方式」の導入する予定だった。市電の運行は熊本市が出資する一般財団法人に移行し、熊本市が車両や軌道の管理を担う部署を新設することになっていた。市電の運転士や車掌は1年ごとに契約を更新する会計年度任用職員が大半で平均年収は384万円にとどまる。乗務員を正規職員とすることで平均年収を480万円まで引き上げるとしていた。近年、ドアを開けたままの走行や信号の見落としなどのトラブルが相次いで発生し、上下分離方式への移行を1年程度延期することになった。
民間も公務員も人手不足である。公共機関の非正規雇用職員が会計年度任用職員として公務員となり、その義務や制限や責任は大きくなった。それなのに、経験が必要で同一労働に近い職種でも正規職員より給与などがかなり低い。希望する人は正規職員にできるだけ採用したり、非正規職員の給与や任用・勤務条件などの待遇を改善するべきである。予算がない応募が少ないと言うだけでなく、そのための予算をきちん確保するべきである。
国も地方も正規職員の代わりに非正規の会計年度任用職員を増やすのは不条理である。国会議員は減らず、その税金の使い道もよく分からないと文句を言いたい気にもなる。
市電の安全運転励行に向けて職員の士気を高めるためにも待遇改善は必要である。数日前に、前倒しで上下分離方式移行後の給与水準に引き上げることになったと新聞などで報道された。
新型市電
熊本市電旧路線図
旧長六橋と市電七号系統(川尻電車)
(熊本教育ネットワークユニオン true myself)