熊本教育ネットワークユニオン

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わからないことは専門家・研究者に尋ねよう

すこしマニアックな話ですが、

黒体輻射(空洞輻射)をめぐって(往復メール)        

放送大学はいろんな刺激を与えてくれる。「化学構造論」や「化学反応論」を見ながら(この「見ながら」が現実)、分子や原子の世界の学問である「化学」では電子の状態を考えること、つまり電子の振る舞いを量子力学で整理することが重要であると、今更ながら知らされる。

量子力学は原子や分子の世界を解釈する優れたアイテムである。20歳のころからその理解に何度もチャレンジしたがその山は私が登ることを許さない。量子力学の山を下から眺めるか、隣の山の麓でうろうろ(量子化学の応用部分を利用した程度)してきた。

 

1 問合せ 

K.M様 化学再学習中の70歳の男性です。以前の研究に空洞輻射(黒体輻射)の教材化の実験開発がありましたが、プランクの時代に温度はどのようにして測定していたのですか?当時は輻射のスペクトルで温度を測る技術はなかったと思う(それが研究課題だから)のですが。お教え願えれば幸いです。

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2 返信① S大学 M.Kさんから小林へ

林敏夫

下記のように、シュテファンーボルツマンの法則があります。熱放射により黒体から放出される

エネルギーは輝度温度の4乗に比例するという法則があります。

S大学物理実験の「光高温計」の実験テキストをデジカメで撮って貼り付けたため少し不鮮明ですが、お送り致します。

参考までに、私の「技術報告」2件もお送りいたします。

S大学技術部 K.M

シュテファン=ボルツマンの法則(シュテファンボルツマンのほうそく、英語: Stefan–Boltzmann law)は、熱輻射により黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表した物理法則である。ヨーゼフ・シュテファンが1879年に実験的に明らかにし、弟子のルートヴィッヒ・ボルツマンが1884年に理論的な証明を与えた。「ステファン」のカナ表記、呼称も用いられる。

この法則によると、熱輻射により黒体から放出されるエネルギーは熱力学温度の4乗に比例する。 放射発散度を I、熱力学温度を T とすれば

{\displaystyle I=\sigma T^{4}}

という関係が成り立つ。放射発散度と熱力学温度の関係として表した時の比例係数 σ はシュテファン=ボルツマン定数と呼ばれる。

 

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3 小林からK.M様へ                             2021年12月8日

今回70歳を過ぎてもう一度量子力学の「登り始め」の所だけでも挑戦してみようと思いました。「登り始め」とは「前期量子論」です。つまり量子力学が建設されたところの考え方を楽しみたいと思いました。量子力学物語で通常最初に登場するのは「黒体輻射」(空洞輻射)の研究です。

 

 その時湧いてきた疑問は、この時代の技術者・研究者たちはこの研究課題(黒体輻射)を解明するに、必要な高温(1,000度とか3,000度の)はどのようにして測っていたのだろう。高温で測定できない温度を炎の色から類推する研究をしているのにそのデータを集める基本的な実験の方法はどうだったのだろう。ということでした。色々調べてはみましたがわからず、調べる過程でM様の文献に出会ったわけです。そこで、M様に私の疑問(上記下線)を聞いてみようと、メールで質問したわけです。もちろん同時に自分でも調べることも続けました。

 

 『科学史研究』,45(2006)で、Wienが1892年白金―白金ロジウム合金の熱電対を使用して1,000度を超える温度を測定したとの記述を見つけました。

( https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhsj/45/240/45_229/_article/-char/ja/ )

ああこの方法で測定したのだなと思いました。私の疑問は「黒体輻射の解明期における高温測定の歴史的な経過」でした。わかりにくい質問で申し訳ありませんでした。

 

 しかしながら、M様の「高温度放射温度計」とそれを用いた熱放射実験の開発はとても勉強になりました。とりわけ2008年3月の技術報告13巻は興味深く読ませていただきました。図9の長波長の2点のずれは表2の電力Pおよび受講感度の有効数字からくるものあるいは低温度におけるスペクトルの「なだらかさ」(高温の山と比しての)からくるものと理解してもよろしいでしょうか? 何はともあれ貴重な時間を割いていただきありがとうございました。

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 K.M様から小林へ

小林様

参考になれば、幸いです。

Q: 図9の長波長の2点のずれは表2の電力Pおよび受光感度の有効数字からくるものあるいは低温度におけるスペクトルの「なだらかさ」(高温の山と比しての)からくるものと理解してもよろしいでしょうか?

A:  図7から分かるように、電力p(縦軸)53Wと84Wと(100V×電流値が)低いと時に分光放射輝度が低めになるという誤差を生じています。タングステンフィラメントは2500℃~3000℃(表2)で輝るとされています。

電流を流すとタングステンフィラメントの電気抵抗のため白熱して輝る構造ですから、1A(100W)くらい流さないと安定しないということでしょうね。

S大学 K.M

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5 小林からK.M様へ

林敏夫

ありがとうございました。 おかげさまで黒体輻射についての理解が深まりましたし、関連実験について新しい知識を得ることができました。本当にありがとうございました。

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Web(ネット)がある時代です。迷惑とは思いますが、疑問があったらメールで問い合わせることにしている。ただし、礼を失しないように心掛けている。