時刻に囲まれて
今も、始業時間に遅刻する夢をたまに見る。家であれこれしているうちに時間が経って間に合わなくなって大概そこで目が覚める。常勤の教諭や臨採の頃はもっと多かった。朝会に出なくて良い非常勤講師になってからも、遅刻なんて関係ない無職の時も時々見ていた。
その時刻を見るのは壁掛けの丸形アナログ時計のようである。針が進むにつれて、ますます焦っていく。デジタル時計の数字では、時間経過の切迫感が少し薄いのかもしれない。
子どもの頃は振り子式の家庭用柱時計だった。穴が二カ所あって、父が時々カギを使ってゼンマイを巻いていた。時報の音も鳴っていたので「ボンボン時計」でもあった。
振り子の等時性を利用して、振り子の長さを調整して周期を1往復/秒 つまり振動数は約1 Hzが普通だったようである。
父は腕時計も時々リューズを指で回してゼンマイ巻いていた。金属の輪の中に細いゼンマイを仕込んだテンプが入っている。軸を中心に左右に往復運動するのを何かで見たことがある。
振動に強く、振り子と同じ等時性があって振動数が高いほど正確さが増すという。ゼンマイの強度などの関係で、1970年代以降は振動数は28,800振動/時のものが標準的だそうだ。換算すると8 Hz(8振動/秒)である。
親から最初に買ってもらった腕時計は、自動巻きだったと思う。腕を振ると、ローターが回転しているのが分かった。それ以来、腕時計を何個か使ってきた。
針や日付表示などを動かしている内部機構をムーブメントと呼ぶが、機械式・クォーツ式・電波式と買い換えてきた。水晶に電圧を加えると、変形が生じて高い精度の周波数を発振するという。それを利用したクォーツ式になってから、精度は向上した。
小型の時計用には32.768kHz(1秒間に2の15乗回振動する値)の水晶振動子が用いられているそうだ。それでも精度は月にプラスマイナス数十秒以内はあるという。
私も時々、秒針を時報に合わせていた。ずっと年越しの瞬間には、必ずそうしていた。文字盤に小穴や小さな液晶で日付や曜日を表示ものもあった。
クォーツ式はある日突然電池切れになって、慌てることがあった。何年ぶりかなので、慌てて電池を交換する店を探すことになった。古くなると、電池交換期間が短くなったようだ。電池切れのまま、ひとつ前の時計は残っている。
今付けている腕時計は、いろいろ調べて9年くらい前に通販で購入した電波ソーラー式である。光発電で電池の交換も秒合わせも必要ない。しかし、発電した電気をためておく二次電池には寿命があるという。そろそろ交換や整備それとも買い換えが必要なのだろうか。
電波式時計の基本はクォーツ式で、標準電波を受信して時刻を補正している。標準電波は地表に沿って伝わる長波で、原子時計を使って正確な時刻などの情報を送信しているという。日本にある送信所は2カ所だが、普段は佐賀の羽金山標準電波送信所から受信していることになる。
原子時計はセシウム原子とその共鳴周波数9,192,631,770Hzのマイクロ波を使っているそうだ。説明を見ても理解できない。その精度は3000万年に1秒ずれる程度までに向上しているという。更に日本発の「光格子時計」は、宇宙の歴史より長い300億年に1秒以下の誤差しか生じないという。ここに至ったら、何のことやらピンと来ない。
地球の自転による時刻と原子時計による時刻のずれを補正するために、「うるう秒」が実施されるようになった。必要な年だけ不定期に、1秒を挿入または削除するそうだ。
我が家では、置き時計も掛け時計もいつの間にか電波式時計の方が多くなっていた。アナログ式もデジタル式も秒合わせは必要なく、アルカリ電池を数年毎に替えるだけで良い。電池を替えるだけ電波を受信して、そのうちに正しい時刻になっている。アナログ式の普通の時計は、時刻のずれも込みで大体の時刻を見ている。
デジタル式は日付や曜日、不正確だが温度まで出る。アナログ式は瞬時に時刻が把握できないことがある。それでも両方式の時計があった方が良い。数字だけだと、何だか味気ないように思う。
時計以外にも時刻を表示するものが身のまわりに多くある。そして、ほとんどがデジタル表示である。テレビやPCやスマホなどは電波やネットワークを通して正しい時刻になる。カメラや血圧計などは最初に時刻を合わせたままで、気づいたらかなりずれている。
自動車の時計はラジオの時報で時々秒合わせをしているので、電波時計なら良いなと思う。金属で囲まれた車内では、長波の標準電波は安定して受信できないのだろうか。
年を取るにつれて尿意で夜中に必ず起きるようになった。家ではライト付きのデジタル目覚まし時計がある。温泉宿などは客室に時計が無いところが多く、目覚めても時刻が分からないことがある。スマホは夜になったら電源を切っているので、明かりがある所で腕時計を見ることになる。
時刻に囲まれて生活している。授業や添削の日程を気にしながらの日々である。また遅刻の夢も見るのだろう。無職に戻ったら、だんだん見ることも少なくなって、やがて無くなるのだろうか。
(熊本教育ネットワークユニオン true myself)

2000万年に1秒と狂わない高精度原子時計