熊本教育ネットワークユニオン

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教育の無償制のために 今泉克己 

教育の無償制のために

               今泉克己

【目次】

1 子どもの教育費の現状

2 日本国憲法を活かして教育無償を実現するために

3 教育の無償化のさらなる前進へ向けて

資料 

日本国憲法 第 26 条〉〈2006年改悪された教育基本法(義務教育)〉〈子どもの権利に関する条約第28条〉

1 子どもの教育費の現状

 文科省は隔年で2万世帯を抽出して各家庭の年間の教育費を幼稚園、小学校、中学校および高校(全日制)の学校種ごとに、各々公立と私立毎に調査している。支出は①学校校教育費、②学校給食費、③学校外教育費に分類されている(文科省「平成30年度子供の学習費調査」より)。公立学校だけを取り出して主なものをあげると以下のようになる。詳しくは以下のURLを参照のこと。(アクセス日 2021年4月6日)

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400201&tstat=000001012023&cycle=0&tclass1=000001135827&tclass2=000001135828&tclass3=000001135829&tclass4val=0

①学校教育費の総額と一番支出が大きいものは、小学校では63,102円/「学用品、実験実習教材費」(17,127円)、中学校では138,961円/「教科外活動費」(29,308円)、高校では280,487円/「通学費」(45,866円)となっている。なお、高校では次に支出が多いのは部活や課外費の「教科外活動費」の40,427円である。

②学校給食費の現状は、小学校が43,728円、中学校が42,945円となっており、小学校の額が大きいのが意外な感じである。誤差の範囲かもしれない。

③学校教育外教育費の総額と一番支出が大きい項目は、小学校では214,451円/「スポーツ・レクレーション活動費」55,022円、「学習塾費」53,313円である(小学校の先生から「学習もスポーツもできる子と、両方できない子に2極分解している」と聞いたことがある)。中学校では306,491円/「学習塾費」202,965円(私学の場合よりも額が大きい)、高校では176,893円/「学習塾費」106,884円となっている。

 公立の小学生と中学生の二人の子どもを養育している家庭では年間の学習費は約80万円となっている。月額7万円弱の負担。

 憲法26条は教育を受ける権利として2項で無償の義務教育を定めているが、現実には上記のように、学校教育に直接関わっている学校教育費や学校給食費さらには学校外活動費など、保護者は多額の教育費を負担している。

 しかも、収入の多い家庭ほど多額の教育費を負担することができ、また、地域別に比較すると都市部ほど高額を負担している実態が現れている。保護者の収入の格差が子どもの教育費の格差に直結している現実が、文科省の同調査から見て取れる。(「平成30年度子供の学習費調査 2 調査結果の概要」。アクセス2021年5月2日

https://www.mext.go.jp/content/20191212-mxt_chousa01-000003123_03.pdf

 2 日本国憲法を活かして教育無償を実現するために

 日本国憲法26条は以下のように義務教育無償を規定している。

日本国憲法 第 26 条〉

 1 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける

権利を有する。

2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる

義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

  憲法の規定を具体化するために1947年に教育基本法が制定され、同法は2006年に改悪されている。ただし、憲法の定める「義務教育の無償」については新旧の教育基本法とも「授業料は徴収しない」としている[1]憲法の規定するものを法律に当てはめて充実していくことが私たちの運動に問われている課題であると思う。1960年代の教科書無償の闘いの教訓を思い起こしてほしい。

 教科書の無償化は高知県などの地方自治体が先導して実現した。国では「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が1962年4月1日に施行され、学年進行方式で拡大されて69年度に中学校までの無償化が実現した。義務教育での教科書無償化が実現された。

 また、給食の無償化については文科省の2017年度の「学校給食費の無償化等の実施状況」及び 「完全給食の実施状況」の調査結果について」は現状を以下のようにまとめている。

 学校給食費の無償化等の実施状況は1,740 自治体のうち、学校給食費の無償化  を実施する自治体は次のとおり。 ① 小学校・中学校とも無償化を実施…76 自治体(4.4%) ② 小学校のみ無償化を実施…4 自治体(0.2%) ③ 中学校のみ無償化を実施…2 自治体(0.1%)

※①は 71 自治体(93.4%)が町村であり、また、人口1万人未満の自治体が 56 自治体(73.7%)を占める。

※①の対象児童数は 41,254 人で、全国の小学校の在籍者数(6,347,066 人)の 0.6%、対象生徒数は 21,943 人で、全国の中学校の在籍者数(3,082,328 人)の0.7%を占め

る。

(httpswww.mext.go.jpb_menuhoudou3007__icsFilesafieldfile201807271407564_001_1.pdf)

[1] 2006年改悪された教育基本法(義務教育)

第五条 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

2~3 略

4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。

 給食無償化を求める市民運動も見られるが、今年の2月7日に執行された、私の街の宇城市長選挙においては、現職も対立候補もいずれも「学校給食の無償化」を公約にしていた。宇城市は人口6万人弱、小学校13校(児童数は約3000名),中学校5校(生徒数は約1500名)の大きくはないが小規模でもない自治体である。

 さらに、国際基準としては、国際人権規約社会権規約 1976年効力発生、1979年日本は批准)及び子どもの権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child 1990年効力発生、日本は1994年批准)がある。前者の13条2項(a)は初等教育の無償、同項(b)中等教育(中学校と高等学校)の漸進的導入を求める(日本は留保)。同じく(c)は高等教育の漸進的導入を定めている(日本は留保)。しかし、政権交代が実現し2012年9月に同条項の留保は撤回された。一方、後者は28条(a)で初等教育、(b)で中等教育の無償化を、(c)で高等教育を利用する機会をについて規定している。

 

3 教育の無償化のさらなる前進へ向けて

 以上の歴史的、国際的な教育無償化の拡大をふまえて、また、義務教育費国庫負担制度、私学助成制度、高校無償化制度などの政策も視野に入れて、子どもたちに真の無償教育を保障するための財政を検討する。

 2021年度の文科省予算の内で文教関係費は4兆303億円である。一方、文科省の「平成30年度子どもの学習費調査」の内「学校教育費」「学校給食費の保護者が負担する総額を学校種毎に試算し、その上で「学校教育費+給食費」の総額を試算すると以下のようになる(筆者作成)。ただし、公立学校で学ぶとの前提をおき、かつ、子どもの人口の減少は続いているが各学年とも1,000,000人として計算した。

 

 

 給食無償化を求める市民運動も見られるが、今年の2月7日に執行された、私の街の宇城市長選挙においては、現職も対立候補もいずれも「学校給食の無償化」を公約にしていた。宇城市は人口6万人弱、小学校13校(児童数は約3000名),中学校5校(生徒数は約1500名)の大きくはないが小規模でもない自治体である。

 さらに、国際基準としては、国際人権規約社会権規約 1976年効力発生、1979年日本は批准)及び子どもの権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child 1990年効力発生、日本は1994年批准)がある。前者の13条2項(a)は初等教育の無償、同項(b)中等教育(中学校と高等学校)の漸進的導入を求める(日本は留保)。同じく(c)は高等教育の漸進的導入を定めている(日本は留保)。しかし、政権交代が実現し2012年9月に同条項の留保は撤回された。一方、後者は28条(a)で初等教育、(b)で中等教育の無償化を、(c)で高等教育を利用する機会をについて規定している。 

 

子どもの権利に関する条約第28条

1 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にか

つ機会の平等を基礎として達成するため、特に、

(a) 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。

(b) 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機

会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。

(c) すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする。

(d) すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。

(e) 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。

2 締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。(以下、略)

 保護者負担額の内、学校教育費の総額は全学校種の全生徒の合計額は上記の試算表に見られるように1,999,170,000,000(1兆9,991億7,000万)円。加えて給食費は幼稚園、小学校、中学校の合計で448,245,000,000(4,482億45000万)円。学校教育費と給食費の総合計は2兆4474億円程度である。

 仮に、学校外活動費を除いて、今現在学校で受けている幼稚園教育、義務教育と高校教育に支出する保護者負担の額を無償とするならば、それに必要な予算は2.4兆円程度と言える。結果、文教関係費は4兆303億円から約6.48兆円程度になると見込まれる。

 憲法第26条および我が国も批准している子どもの権利条約を始めとする国際条約を活かして、「学校給食費」(4482億)を公費負担としたうえで「学校教育費」(1兆9991億)の内容を精査し、「教育の無償制の実現」に必要な金額を国で負担する改革が求められている。