熊本教育ネットワークユニオン

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秋のソネット(2)

秋のソネット(2)


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 実は、この笹が旺盛に繁茂するので山毛欅(ぶな)の自然更新が難しくなっているという話を聞いた
ことがある。冷涼な気候を好む山毛欅だから、九州では標高の高いところにしか自生しない。反対に
、温暖な気候を好む笹から見れば九州は恰好の住処(すみか)となっているわけだ。両者は今は共存
しているが、山毛欅は笹に邪魔されてその種子を地中に届けることができずにいるということらしい
。加えてグローバルウォーミングの時代だから、九州に生まれた山毛欅たちにとってはますます過酷
な生存環境になってきたと言える。森の女王の、そして私の大好きな山毛欅たちを、何とか守ってい
かなければならないと常々考えているところだ。海の豊かさだってこの森が守っているということも
知っていて悪いことじゃない。
 ほかにも珍しい木々はたくさんあるけどこれくらいにしておこうか。杉と檜の違いも知らない君た
ちだから一度にすべては覚えられないだろう。とにかく、人は経験と観察を重ねることが大事だね。
経験や観察は行動と習慣へとつながる。それが知性、感性へと発展して正しい判断力、明日への生き
る力となる。ちょっと説教臭くなったかな。ま、教師なんだからそこは許してくれたまえ。
     
      (5)
「小鳥の声が全然聞こえてきませんね。」と真希が言う。
「あ、そう言えばそうだ。今まで気がつかなかったよ。朝一番にたっぷり鳴いて、今頃は茂みの奥で
お休み中ではなかろうか。ひょっとしたら、地面に這いつくばっている人間を見てくすくす笑ってい
るかもしれないよ。」
「鳥が笑うんですか。面白い。紘子は特に笑われていますよね。」
「はっは。私も似たようなものだ。ところで小鳥だけじゃないんだ。この山にはいろんな動物も暮ら
している。けれど一体どうしたんだろうね。兎も鹿も、蛇の子一匹たりとも出てこないね。」
「え。蛇だったら出てきてくれない方がいいですよ。」……
 確かにその通りだ。極上の光が流れているのに、鳥たちのおしゃべりも、梢を揺らす羽音も、谷間
に谺する鹿の啼き声さえも、全く聞こえてこなかった。音といえば登山者の靴音と話し声くらいのも
のだ。言われるまで気が付かなったのは全く私の迂闊であった。しかし、と言えば君たちは笑うだろ
うか。実は私には聞こえていたのだ。森に入ったその瞬間から、草木が歌うかわいい歌が、また靴に
踏まれる枯れ枝のため息が。キツツキが太鼓を叩かなくとも、オオルリがフルートを奏でなくとも、
こんなにも豊かな森の歌に耳を傾けないことはないだろう。
 「今日の先生、だんだん無口になっていくね。」「いつもなら‘イケメンの息子‘さんの話が始まる
のにね。」紘子と真希の囁きが聞こえる。
      
      (6)
 頂(いただき)で君たちが見たもの。それは秋の空と白い雲。遥かなる山々の連なり。足元の急峻
な斜面。錦に染まる広大な樹海。そして彼方の、君たちの揺籃の地であったろうか。その視線の先に
はきっと、これまでの日々の歩みがくっきりと、そしてこれからの人生の流れが朧げに浮かび上がっ
ていたに違いない。私は今日、君たちと過ごすことができた時間を美しい思い出として残しておきた
いと思う。小さな詩でも完成したらぜひ読んでくれたまえ。
                        ~オウシャン・セイリング~

鴈俣山