熊本教育ネットワークユニオン

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春景

春景

            (1)             
 咲き急いだことを恥じらいながら、瑠璃色の小花たちが池の畔で震えていた。木々はざわめき、貪欲な黒い鳥さえ、荒立つ波に怖じけて翼をたたんだ。冷酷な冬の使いが、再び氷の刃を見せつけながら、嘲るように野山を駈けて、この光の中のまどろみを破ったのだ。
 おお、私の前を永劫のものが横切ってゆく。追憶も羨望も一度に呑み込んで、私を意志と悟性の果てへと導こうとする。――その時、風は黒松の林に留まって、遠くで聞く潮騒のような、不規則な郷愁の音楽を奏でた。

            (2)             
 人は外から持ってきた物質で化粧するが、自然は自らが備える美の精神で化粧する。今、木々たちが芽吹きを終え、一斉に葉を広げ始めた。若い木も老いた木も、褐色の木も白肌の木も、萌え出た葉むらはすべて同じ色である。まるでお互いに約束しあったかのように。
 落葉樹の森で繰り広げられる嫋やかさ、和やかさの競演。空間に漂う時間の静止。その姿は、温められた空気に無抵抗で反応したものではないだろう。やがて来る個性的な色彩変化の前の、張りつめた意志による共同の演出である。木々が、森が、山々が、こぞって緊張の中でこの秩序を創り上げているのだ。人の美は一昼夜である。かたや自然は、季節を越え、世紀を超え、その時々で形を整えながら、永遠の美を模索する。


                     (ネットワークユニオン・S)