熊本教育ネットワークユニオン

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かくばかり すべなきものか 世の中の道

かくばかり すべなきものか 世の中の道

    師走が、すぐそこまでやってきた。大相撲九州場所も今日27日、千秋楽を迎える。残念ながら熊本農業高校出身の正代は大関陥落が決まった。御嶽海も陥落一場所目に負け越し、大関復帰は一からのやり直しとなった。若い力士の相撲はなかなか面白いが「横綱大関安泰の時代は遠くなりにけり」の様子だ。三年前だったか連れ合いと九州場所を観戦し、煌煌と照らされた土俵と迫力ある取り組みを、力士と一緒に右に左に体をゆすりながら見入った。

    小泉純一郎が「痛みに耐えて、よく頑張った!感動したっ!」と、貴乃花総理大臣杯を授与したのは2001年の夏場所だった。本割りで敗れた手負いの(膝の亜脱臼)貴乃花が、優勝決定戦で武蔵丸を執念の上手投げに破り、鬼の形相で勝ち名乗りを受け、優勝したのだった。

    小泉純一郎は、夏場所直前の衆参両院の所信表明演説で「構造改革なくして日本の再生・発展はない。痛みを怖れず既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれず、21世紀にふさわしい経済・社会システムを確立していきたい」と述べ、明治初期の長岡藩の「米百俵」の話を持ち出した。そして「今の痛みに耐えて明日をよくしようという『米百俵』の精神こそ改革を進めようとする今日の我々に必要ではないでしょうか。私はこの内閣において『聖域なき構造改革』に取り組みます」と宣言した。貴乃花の優勝は小泉にとってジャストミートだった。20年後の現在、小泉構造改革が残したものは、貧困や階層間格差の拡大、平等・公正・公平性といった理念の破壊された社会であることは疑いない。「聖域なき構造改革」は、持論の「郵政民営化」を強行するとともに「労働者派遣法」を改悪し、非正規労働者を圧倒的に増やした。今や「正規労働が当たり前」を知らない若者がほとんどだ。今日の格差と貧困をもたらした小泉純一郎の責任は計り知れない。小泉内閣のころ、私は「世の中からいなくなって欲しい人物(もう少し品のない表現だった)」の第一に小泉を上げていた。

 折から防衛費の10年間で40兆円への増額が叫ばれ、その財源は「国債によることなく、国民負担つまり増税だ」という議論が報道されている。ロシアのウクライナ侵略、円安あるいは便乗によって物価高騰は引きも切らない。連合の芳野会長は年末一時金の獲得金額を評価し、来春季生活闘争の賃上げ5%目標を表明した。彼女の発信に触れるたびに、底辺で働く労働者の姿が見えないことに不満を抱く。労働運動を「意識的に」本工労働者の枠内に止めているのではないかと疑わざるを得ない。

 万葉集「巻第五」に「貧窮問答歌山上憶良)」がある。長歌の最後の部分と反歌を引用すると「・・・・・・父母は 枕の方に 妻子(めこ)どもは 足(あと)の方に 囲み居て 憂へ吟(さまよ)ひ かまどには 火気(ほけ)吹き立てず 甑(こしき)には 蜘蛛の巣かきて 飯(いひ)炊(かし)く ことも忘れて ・・・略・・・ しもと取る(賦役の鞭を打つ) 里長(さとおさ)が声は 寝屋処(ねやど)まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世の中の道」「反歌  世の中を 厭(う)しとやさし(つらい)と 思へども 飛び立ちかねつ(飛び立って他所へいくこともできない) 鳥にしあらねば」

まさに、今の日本そのものを表す貧窮問答歌である。万葉集の成立は八世紀後半なのに。

(11月27日)