熊本教育ネットワークユニオン

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峠から峠へ

峠から峠へ 
                      (1)
 駐車場から5分、地蔵峠に登り着いたその瞬間に3人の元気な女性たちが新鮮な朝の挨拶をしてくれた。彼女らは北側から縦走してきたらしい。「ほらこれよ、ハバヤマボクチ。」と一人が紹介すると、他の一人が「あら気づかなかった。いたのね、あなた。」とカメラでパチリ。「どこまで行かれますか」と問うてみる。ひょっとしたら駒返峠まで一緒なのかな、という期待と不安を込めて。すると即座に、「俵山の方へ戻ります。」と呆気ない返事であった。この稀な植物が目当てで七曲峠(俵山山麓)からここまでの、かなりの距離を歩いてきたということだった。
                      (2)
 山では女たちの方が断然元気がいい。男どもは総じて寡黙であるのに対し、女は声が大きく話題も豊富である。岩場を下りながら家族のことを話題にするなど、男にできる芸ではないと思える。いかにも生命力の旺盛さを感じさせる。きっと精神力が強いのだろう。いやそればかりでなく、どうやら体力、持久力といった面でも男より優れているのではないかと思う場面がこれまでに幾度かあった。子どもを産むことがない男とは決定的に違う何かを、明らかに女たちは持っている。

                      (3)
 全くいつ終わるとも知れない、長いアダージョの楽章を聞いている気分だった。歩いても歩いても道は尽きず、頭上では大小の木々が静かに穏やかに、合奏を続けていた。それは見事なまでに美しい、しかしリズムに変化が少なくモチーフ自体が長いので、掴もうとしても掴みきれない旋律であった。わが思考力はほとんど麻痺してしまった。視力や聴力は健気にもその働きを忘れてはいなかったが、見えるもの、聞こえるものがすべてわが悟性と切り離されて、気の利いた比喩一つさえ思いつかなかった。足だけが、ただ機械のように無分別な運動を繰り返した。こうして、長大な森の交響曲を聞きながら、15キロの道のりを往復した。
                                               (ネットワークユニオン・S)