「帰還可能点」であるうちに
「武力で平和は作れない・・・元イスラエル軍兵士 ダニー・ネフセタイさんと話してみよう」という講演会に参加し、木製家具作家として日本で暮らすダニーさん筆の集英社新書も手に入れ、戦争が絶えないイスラエルに住む普通のイスラエル人が、どのような思いで過ごしているのか、考えさせられた。▲イスラエルには徴兵制があって、歴史を教えられないままヨルダン川西岸地区に派兵されたイスラエル軍の若者たちは「なんでユダヤ人の土地にパレスチナ人が住んでいるのだ?」と疑問を持ち「パレスチナ人を追いだそう」と、歴史的な事実とは全く逆の意識を持つのだという。なぜなら小学校から12 年間旧約聖書を学び「創世記」15章18~21節を暗唱し、イスラエルは神が約束した土地であることを信じている。「平和教育」を受け、「平和は大切だが、そのためには力が必要だ」「アラブ人が望めば平和になる。イスラエルは正しく、アラブ人が戦争を選んだ」と信じて疑わないからだ。▲イスラエルでは誰もが自由な教育を受けているとダニーさんも思っていたが、不思議なことに18歳で高校を卒業するころには、徴兵に応じるのは当然のことだと軍隊へのあこがれを強め、国のために命を捧げることを讃えるようになり、空軍パイロットを目指したダニーさんは、イスラエル軍による子どもを含むパレスチナ人の大殺戮を契機に軍隊を疑うようになり、「武力による平和」「抑止力による平和」という考えでは復讐の連鎖は止められないと考えるに至った。▲2011年の福島第一原発事故を経験し、「戦争と原発は少数の人の利益のために多数の人が犠牲にされるという点でよく似ている」ことに気づき、この二つを止めるために力を尽くすのが自分の使命だと自覚するようになったという。▲ダニーさんがパイロット養成学校で学んだ「帰還不能点」とは、燃料との兼ね合いで一定の時間以上飛ぶと基地に引き返せなくなるという限界点のこと。飛行機は「帰還不能点」に近づけば近づくほど引き返せなくなる可能性が高まる。同じように戦争についても「帰還不能点」に近づけば近づくほど声を上げにくくなる。だから、「帰還可能点」であるうちに、なるべく早く、戦争につながりそうなことに気付く度に、私たちは声を上げるべきだ。特に社会的に影響力のある人は、声を上げる社会的責任がある・・・と言う。▲2013年の特定秘密保護法から10年余。集団的自衛権行使容認の閣議決定、安全保障法制、共謀罪法、武器輸出の限りない拡大、敵基地攻撃容認、辺野古新基地建設・南西諸島へのミサイル基地配備、自衛隊へのオスプレイ配備、自衛隊護衛艦の空母化、台湾有事や北朝鮮のミサイル発射に関するマスコミの過剰な喧伝、中国脅威論、SNSによる排外主義の拡散、加速する自衛隊と米軍の一体化などなど、そして沖縄をはじめ離島住民の九州山口への避難計画。▲まだ「帰還可能点」か。
(Trout 2024.6.8)