熊本教育ネットワークユニオン

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夏山の賦

    夏山の賦

       (1)
  山々は今日も歩いている
  日に日に私から遠ざかってゆく
  谷や尾根がうたを歌っている
  やがてそのうたも聞こえなくなるだろう

       (2)
  シラビソの森の中で
  確かに私は聞いた
  樹々の呟きが森全体と協和して
  膨らみのある旋律が樹間に満ちているのを
  鳥たちが声をひそめていたのは
    この森の歌を聴いていたからにちがいない
    それともこの歌は
    山頂のカールから這松の海を越えて
    可憐な花々の香りを届ける風の
    生まれ変わりだったのだろうか
    
       (3)
  カールの壁をあとからあとから人が登ってくる
    まるで霧の底で人が湧いているかのようだ
    岩ぶすまが起ち上がり無言で行列を見守っている
    厳冬の頂なら
    たった一人の登山者をさえ拒むことがあるかもしれぬ
    けれども
    今日のお山は何と優しく穏やかな貌であることか
    三千もの遊山者たちが花や風と遊び
    三千通りの思い出を持ち帰るだろう
    そんな熱にも感傷にも素知らぬ顔して
    巨峰は和やかにほほえむのだ
    やがて――
    われらのうちから汗が消え動悸も消えて
    あれはたまゆら
    影のような時間であったと悟るとき
    駒ヶ岳の永劫の息づかいだけが人の記憶に残るだろう

                       (オウシャン・セイリング)