熊本教育ネットワークユニオン

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西山太吉が語る「秘密保護法~その背景と問題点」<故西山太吉さんの講演要旨>その⑤(最終回)

西山太吉が語る「秘密保護法~その背景と問題点」

2月26日の朝刊に、西山氏の逝去が報じられた。「沖縄密約とは何だったのか」今一度、当時の講演記録で振り返りたい。

<故西山太吉さんの講演要旨>その⑤(最終回)

 

公的情報を独占する国家

 今、私が一番恐れているのはメディアです。国が情報をコントロールするにはメディアしかありません。逆に国民の要求をくみ取って、それを権力に投げ返すのもメディアしかないのです。メディアは非常に大きな役割を果たすのです。問題は国が情報を独占していることです。国家・政府はあらゆる公的情報を独占しています。自分たちとって有利な、自分たちの都合に合わせられるような、自分たちのシチュエーションをあげて行くような情報を、優先的に流していきます。自らが犯罪者でありながら、自らの犯罪を調べる。たくさんの情報の中から選別して・・・自ら都合の悪いものを流すはずがありません。都合がいいものばかり出していきます。しかし、それは大本営です。民主主義は崩壊します。

外交交渉でもそうです。外交交渉のプロセスは、機微に触れ、相手の立場もあるから、いちいち発表する必要はありません。私は先日、参議院安全保障委員会に出席して言いました。「外交交渉のプロセスを秘密化していることは仕方ない。しかし、結論が出たら、外交、特に日米安保体制、日本の安全保障のキーストーン、結論がでたら、あるいは、重要な取り決め、合意事項ができたら、120%国民に、最高に正確な説明をしなければいけませんよ」と。「今まで、日本はミスリードしたり、ごまかしたりやってきました。日米新安保条約しかり、沖縄返還協定しかり、イラク戦争しかり、全部そうです。外交交渉の結果について嘘をついてきました。これだけはやってはいけません。これをきちっとやるだけでも、秘密保護法には大きな枠がはまるのです」と。しかし、そういう当たり前のことを(国会で)言わなくてはいけないということは、本当に情けないことです。発言後、参議院の委員会の委員は全部私の周りに来ました。与野党「全くその通りだ」と言うけど、実は何もやっていないのです。

 

体制に順応するメディア

日本がそういう情況になっていく中で、一番の問題は、メディアが体制順応型になりつつあることだと思います。権力は、いくらでも取捨選択して情報を流せます。それは権力の得意中の得意。都合の悪い情報を出すわけがありません。その、権力にとって都合悪い情報を抜き取ってくる、本音と建て前の違う、嘘をついているところを引きちぎるように持ってきて国民に伝達するのが、メディアです。そうして、初めて何とかバランスがとれるのです。圧倒的に権力が有利なのです。メディアは、そんなものなのです。なのに、そのメディアの中から、秘密保護法賛成が出始めている。

 先日、ハルペニーというアメリカ人と話しました。私は「実は、日本のメディアは秘密保護法への対応では四分五裂の状態で、全会一致なんてものではない。特に巨大な新聞は・・・」と説明しました。ハルベニーはビックリしました。彼が言うには、「圧倒的に権力は情報を持っている。それをチェックする、なかなかできることでないが、メディアで一生懸命にやって、全力投球でやって、一致結束して権力に向かっていったときに、ようやく7:3か6:4くらいになる。それにも拘わらず、メディアの中から権力の秘密保護に力を貸すようなものが出てきた時には、このバランスは一挙に崩れてしまう」と。もう、全部なすがままにやれる体制、日本はそういう状況になっているのです。

 

内部告発不能の官僚機構

 その意味では、メディアはすでに自己破産しつつあります。日本のメディアは国家権力の内部に取り込まれていました。虚偽情報をすっぱ抜いてそれを国民に提示して、政治権力に謝罪させた事例なんて一つもありません。それはメディアの努力が不足しているからです。

日本では内部告発がありません。内部告発は秘密保護法にとって死活を制するほどの重大なファクターですが、日本には内部告発がありません。日本の官僚機構はそのような仕組みになっています。終身雇用、部内秘・・・本当にごく一部しか知らない、調べられないような仕組みができています。米国の国立公文書館では、国務省国防省ペンタゴンとか他の役所から一旦公文書館に入った文書は、もう二度と元の役所に戻れないのです。同時に国立公文書館は、ペンタゴン国務省に対して、書類の提出命令を出して点検チェックして、秘密事項か否かをアドバイスする権限を持っています。日本にはそんなものはありません。日本の事務次官たち、審議官たちは役所の御用達です。それがチェックしたって、なんにもならなりません。犯罪者が犯罪を裁くようなものです。そういう全体的な仕組みのなかで、適性検査を受けたエリート官僚・精鋭部隊が、朝から晩まで毎日毎日、特定機密、特定機密、特定機密ばかりやっていきます。これが、1年、2年、3年、4年、5年、6年経っていくとだんだん機構化し、その機構が一人歩きするようになります。そして機構の内部が固まり、どんどん再生産されていく。一人歩きしだしたら、もう、何も受け付けませんよ。一番怖いのは、「機構化」です。システム化し、その中の人間が「機構の人間」になる。そして、それがバトンタッチされていく。どんどん重層化されていく。官僚の中に大きな勢力ができていく。外務大臣は1年か2年で辞めます。特定秘密の詳細なデータを全部集めることができるのは官僚です。恣意的に選別できるのも官僚。政治家は全然タッチしません。要するに、非民主的な官僚主義です。官僚主義というのは、秘密主義です。

 

「燻り」を「火焔」に

 いろんなことを申し上げましたが、皆様方が、そういうような日本の巨大な流れというか、ひたひたと始まっている潮流を何とか防ぎ止めて、そしてこれを逆転させなければならない。そのためには皆さん方、市民の間の、主権者の団結と相互の交流と一体化が非常に重要になってきます。私が秘密保護法について、ちょっと期待しているのは、秘密保護法が国会を通ったにもかかわらず全国の至る所に、集団的自衛権の問題と裏腹のような関係で、絶対に阻止しなくてはいけないという運動が、絶え間なく継続していることです。これは非常に珍しいことです。一つの大きなテーマがあっても、それが通ってしまうと、すっと潮が引いてしまう、二年、三年経つうちに、完全に社会化してしまう、というのが日本社会の特徴です。だけど、今度の秘密保護法に関しては、本当の危機感、これは大変なことになる、このまま黙認したら日本の社会は一体どうなるのだというような、危機意識が潜在的にあります。どこに行っても、秘密保護法廃止の運動が残っています、燻っている。ですから燻りをどんどん広げて拡大して炎にしていって、やがて、それを火焰にしていくような努力が、これから必要だと思います。

ご静聴ありがとうございました。

 

 

5回にわたって連載しました。

改めて申し上げますと、この講演は2014年8月15日「敗戦の日」に実施しました。前年(2013年)12月に「特定秘密保護法」が強行採決されました。全国で廃案、成立阻止、廃止の運動が取り組まれました。熊本では2014年3月30日に「秘密保護法廃止!くまもとの会」が結成され、以降、市民と野党が結束して「アベ政治」と対峙する運動が全県的に広がっていくことになります。

 しかし2014年4月1日には「武器輸出三原則」が見直され、武器の海外輸出が一部解禁されることになりました。7月1日には「集団的自衛権容認の閣議決定」が行われ、翌年の「戦争法」をはじめ「戦争を準備する国、日本づくり」がアベ的手法で次々と強行され、現在のキシダ政治につながっています。

 西山さんの講演を振り返ってみると、今日の状況を明瞭に予言していることに改めて気づきます。

 「燻り」を「炎」に「炎」を「火焔」に出来ているのか自省することが、西山太吉さんへの「告別の辞」かもしれません。

 (M)