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西山太吉が語る「秘密保護法~その背景と問題点」<故西山太吉さんの講演要旨>その④

西山太吉が語る「秘密保護法~その背景と問題点」

2月26日の朝刊に、西山氏の逝去が報じられた。「沖縄密約とは何だったのか」今一度、当時の講演記録で振り返りたい。

<故西山太吉さんの講演要旨>その④(注は筆者)

 

それは麻生政権から始まった

米国はイラク戦争の時に「金は要らん、軍隊を出せ」(show the flag)と要求しました。湾岸戦争時に、日本は1兆円、世界で一番お金を出しています。だけど、イラク戦争では金ではだめ、軍隊を出せと言うのです。憲法違反だからそれだけは勘弁してくれと言っても、「ダメだ」と言われて、結局、航空自衛隊を出しました。政府は「国連の人道支援クウェートからバグダットまでピストンで輸送した」と説明しました。市民団体の開示請求に対して、自公政権は開示せず、全部墨塗りで真っ黒でした。民主党政権になって開示され、輸送の69%は米兵だったことが明らかになりました。国連の人道物資は3割以下。武装米兵をクウェートからバクダットに運ぶということは、完全な戦闘行為で、違憲です。だから、名古屋高等裁判所違憲判決を出したのです。

 米国はその時々の状況に応じて様々な要求をしてきます。日本がどんどん受けることで、憲法秩序は崩れていきます。しかし従来の政策は維持しなければいけないという大きな重荷を背負い込み、「密約」「極秘」つまり特定秘密しかなくなるのです。

 吉野(注;元外務相アメリカ局長)が沖縄返還における密約を明かし、多方面にわたって、たくさんの密約をしたと詳細に説明した2006年、直後の参議院予算委員会で、当時の麻生財務大臣は「沖縄返還協定の記載事項がすべてで、それ以外の密約は一切ございません。吉野はかつてないと言った密約を、今頃になって、あるというのは変じゃないか」と開き直りました。口止めしたことに頬被りして。吉野がかつて否定したというところだけ持ってくる。密約を結んだ当事者が詳しく説明しているのに、その上司である最高幹部が無いと言うのです。

 今回の「特定秘密保護法」は、麻生内閣の時から出てきました。麻生が沖縄密約で痛い目にあって懲りたからなのです。「吉野からしっぺ返しをくった。もうこのようなことをやられてはいけない」と。逆襲ですよ。「ようし、秘密保護法によって、国家秘密の動揺を防ごう」吉野証言は逆に利用されるのです。官僚が秘密漏洩を徹底的に抑圧する方策をたてるのです。その辺りの経過を理解してもらいたいのです。原案は麻生内閣の時から始まったのです。

 

違憲状態を隠蔽する密約

 これは、今(注;2014年7月1日閣議決定)の集団的自衛権とよく似ています。これまでは集団的自衛権はないという建前を持っていました。憲法秩序です。その中で国際政治、外交をしなければならないと内外に宣言しています。米国の要求はその憲法秩序に摩擦を起こすのですが、日本は受け入れ、どんどん建前が崩れていきます。その建前と本音を調整するのが密約であり、特定秘密なのです。日本はよく言うじゃないですか、日本は戦争に参加しなかった。憲法があったからだと。日本は世界に冠たる国。これは正に日米安保体制のおかげであると、そう言う人がおるでしょう。しかし、実は、沖縄施政権返還は、ベトナム戦争の真最中に行われ、スタートしました。ジョンソン大統領の時にロストという補佐官がいて「先ず、日本がベトナム戦争を全面支持することを、海外に宣伝しろ。そして、ベトナム戦争の影響を受ける東南アジア諸国南ベトナムに対して徹底的に援助を強化しろ、それが沖縄返還交渉の大前提だ」と言いました。スタートはそこです。日本は戦争をせず、軍隊は派遣していないけれども、ベトナム戦争を全面的に支援している、全面的に貢献しているのです。それは、本当に憲法に基づいた国の行動でしょうか。私は、日本は少しも平和的な国家として歩んできていないと思います。よく平和国家として、日本は大変な道を歩んできたと言いますが、そうですか。イラク然り。アフガニスタンだって、そうです。アフガニスタンの時に海上自衛隊は出て行きました。沖にずっといました。それはアメリカの要請なのです。その時、政府は「麻薬が資金源になるんだ。それをチェックするために洋上に艦船を置くのだ」という説明をするのです。とんでもない、麻薬ルートは海ではなくて山岳地帯ですから、いくらでもルートはあるのです。それなのに、海上自衛隊は出て行きました。その時にアメリカの空母に給油したのが発覚しました。イラク戦争に参加した航空母艦キティホークに大量の洋上給油を行いました。「たった20万ガロン」と福田康夫官房長官(注;後の総理大臣)が言いました。ところがなんと、その四倍、80万ガロン給油していたことが分かりました。完全に米航空母艦と一体になって、作戦行動をやっていたということです。イラク戦争に参加したのです、先述の通り、航空自衛隊しかり、米兵を何千、何百と毎日運んでいる。それでも、戦闘に参加していないと言うでしょう。日本は平和憲法をもっているからというけれども、事実は全部憲法秩序を崩してしまっている。ばれたら困る、だから、という秘密構造なのです。

 

主客転倒の密約構造

 米国はイラクで大失敗をやって懲りています。アフガンから撤退、中東からも全面撤退。戦争に対する忌避、本国ではすごい関心があるのです。つまり、今回の「集団的自衛権」は米国からやってきたのではなく、日本が提唱し、米国を連れ込むのです。米国は、たいした問題でないと嫌がります。TPPの方がよっぽど大事なのです。集団的自衛権で米国を引きずり込むためには、対立要素・緊張感が必要です。集団的自衛権は簡単なことではありません。日本が攻撃されていなくても米国が攻撃されたら、日本は出て行きます。これは従来の発想の転換です。今度は、それを日本が主導権を握ってやろうとしているのです。米国が主導権を握ってやっていたのは過去のことなのです。米国は、とうとう戦争に失敗しました。米国はこの2011~13年の間に、イラク、アフガン中心に310兆円を注ぎ込み、国防費を毎年4兆円弱減らしていかなければならなくなりました。東アジアでは、(中東と違って)日本が出してくれるから金がかからないのです。米国は中国と共存関係を保ちながら、東南アジアを最大の市場として目をつけて展開してきました。中国との共存は至上命題なのです。でも、日本は尖閣のような対立要因をほじくり出していきます。日本は対立要因を探し回って、それをクローズアップして集団的自衛権にもっていくのです。米国は迷惑でしょう。今回は主客転倒です。以前は、米国が要請して日本がそれを受けて誠意を示し、その誠意を隠すために秘密がありました。今度は違うのです。日本が主導権を握って米国を引きずり込む、対立要因を、中国包囲網を形成するのです。はっきり言えば、念頭にあるのは「武力による国際紛争の解決」です。そのための特定秘密なのです。それは戦後の秩序というものを一挙に後退させるどころか、新しい、完全な秩序、新しい国家秩序、軍事力を中軸とした国家秩序を再編成するのです。そのための国家秘密なのです。秘密が必要なのです。軍事と秘密は表裏一体です。すでに、そういう方向が始まっているのです。

 先日、仙台で講演しましたが、自衛隊員が集会に潜り込んで、誰がどう発言したとか、全部チェックしていました。もうすでに特定秘密保護法の実態が進行しています。防衛省に情報開示に行くと、来た人間がどういう人間で、どういう家庭で、どういう社会的活動しているか、全部調べるんです。もうマークされているのです。そういう国に自然になっていく。そうならざるを得ない。軍事だから。軍事化とは組織化であり中央集権化です。軍事に地方分権なんてあり得ない。そういう循環型に日本が入っていく、その中で我々は今どのように対処しなくてはいけないか、どのように情況を認識しなければいけないか、どのような行動を起こさなければいけないか・・・そのためには、正確なたくさんの事実を知ることです。知らなすぎるのです、日本人は。