熊本教育ネットワークユニオン

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「イワンの馬鹿」の平和思想

      

        「イワンの馬鹿」の平和思想

 

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 春休み中の一日、肩の凝らない読み物を求めて「イワンの馬鹿」のページを繰りました。過去にも2度、3度と読んだことがあったのですが、トルストイがロシアの民話をまとめたものという程度の認識でした。内容に関しても似たような理解でした。すなわち働き者のイワンが、しくじってばかりの兄たちを助けてあげる話だと。馬鹿と言われてもいい、無骨な生き方でもいい、手足を使い、額に汗して働くことの尊さを教えてくれる民話であると。しかしそれはこの物語のほんの一面に過ぎないことを知りました。

 

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 結論から言えばこれは、戦争否定とカネ万能主義(資本主義)への警告であることは間違いないと思います(どの解説書にもそう書いてあります)。藁で兵隊を作る、木の葉から金貨を拵えるなどという設定そのものが、作者の価値観を示していると読み取れます。しかし読み進めていくうちに、トルストイさんは自由や平等、信仰や人間愛を、平和の象徴として作品に込めたのではないかと思うようになりました。老悪魔や小悪魔たちが登場して次々に悪さを仕掛けます。欲に溺れた兄たちはあっさりと攻略されるのですが、イワンだけは誘惑に乗ってこない。それどころか、鎌で茂みを刈っている時に小悪魔のしっぽを切り落としてしまうのです。この細かな演出にも、作者の確かな意図を感じることができます。もう一つ。作者は空飛ぶ軍隊を登場させています。調べてみたら、この本が書かれたのは1880年代。あのライト兄弟が初めて空を飛んだ年よりも10数年早いということが分かりました。つまり、戦争はいずれこうなるだろうという予見が、作家の頭の中にあったのではないでしょうか。

 

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 現代のプーチンは、祖国の大文豪が残してくれた知恵をどう受け取るのでしょうか。カネまみれの中で軍拡を進める日本のリーダーたちには、このメッセージが伝わることはないのでしょうか。まさか自分たちが、いみじくも滑稽な姿でこの本に描かれていることなど彼らは知る由もないでしょう。政治家を批判することは簡単。ですが、一読したぐらいで賢らぶって論評する気分でもありません。おそらく文豪が一番伝えたかったこと、「馬鹿はどっちですか」ということを確認しておきたいと思います。

 

(注)テキストは「トルストイの民謡版画集」(北御門二郎訳、地の塩書房・1986年)を使いました。版画は当時の宇土高校の生徒たちが担当しています。

                       ~~オウシャン・セイリング~~