早春賦
坪井川遊水公園を一周する散歩道は、地元の有志によって「花畑公園」になっている。リーダーのN氏は広大な公園のどこかで、毎日作業をしている。あるときは苗の植え替えであり、除草であり、小石拾いである。また、あるときは有志を引き連れ人力で芝公園の周囲を掘り起こし土手を孟宗竹で囲って池とし蓮を植えるという大がかりなことをやってのける。
今、散歩道は菜の花の盛りで、柴犬小太郎と散歩をすると、むせるように香る。河津桜はすでに散った。もうしばらくするとソメイヨシノと菜の花の共演が見られるが、今はまだ蕾が固い。
玄関先に置いている三つのメダカ鉢には、冬の間は姿を見せなかった連中が、痩せた姿で泳ぎ回り、餌を求めている。花壇の水仙も、いつもより満開が早いようで強烈な香りを沈丁花と競い合っている。クリスマスローズは、地植えも鉢植えも、日々花の数を増やしながら春を告げている。
先日、B氏から「蕗の薹」をたくさんいただいた。帰路に着く前に家人にLINEで連絡をしておいたので、天ぷらの準備は整っていて、帰りがけに買ったちょっと高めの日本酒の肴になった。三月三日は、我が家に女の子はいないが「ちらし寿司」が恒例。
一昨日はふと思い立って、アップルパイで有名になった近くの「二つ茶屋」で桜餅を買って帰った。ちょっと大きめの桜餅はプンプンと葉の香りをふりまいて、最近のお土産の中では評判上々だった。
そういえば、遊水公園の河津桜の木に「桜餅に使う桜の種類は何ですか?」というクイズがぶら下げられていて「答えはこの裏に書いてあります」とある。まったくわからないので裏を覗くと「オオシマザクラ」とあった。なるほどと了解するだけの知識が無い私だが、ソメイヨシノではないことを知ることができた。
昨年もそうだったが、遊水公園の雑木林の中からウグイスが練習なしに鳴き始めた。以前は必ず、へたくそな歌から始まって次第にまっとうな「ホーホケキョ」になっていった。「時にあらずと声を立てず」と「早春賦」は唄うが、「時にあらずという時期」がなくなっているのかもしれない。
「早春賦」の三番の歌詞は「春と聞かねば知らでありしを/聞けば急かるる胸の思ひを/いかにせよとのこの頃か/いかにせよとのこの頃か」とある。春を待ちわびる微妙な心の動きが映し出されている。
ついでに桜を愛でる心の「極致」を詠んだ歌を・・・
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」 在原業平朝臣
今日は3月11日。あの甚大な被害を受けた東北地方にも、春は音もなく近づいているに違いない。
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